大屋 雄裕

慶應義塾大学法学部教授
日本

1974年生まれ。慶應義塾大学法学部教授、専攻は法哲学。東京大学法学部卒、同大学助手・名古屋大学大学院法学研究科助教授・教授等を経て2015年10月より現職。著書に『自由とは何か:監視社会と「個人」の消滅』(ちくま新書、2007年)、『自由か、さもなくば幸福か?:21世紀の〈あり得べき社会〉を問う』(筑摩選書、2014年)、『法哲学』(共著、有斐閣、2014年)等がある。総務省・AIネットワーク社会推進会議構成員。


<CFI特別セッション:人工知能への社会へのインパクト>
【Day2-4】セッション1:今考えるべき問題と社会へのインパクト

「責任の裂け目」を避けるための枠組

急速に発展するAI技術は、「AIに支援された判断」さらに「AIの判断」を生み出すところに近付いている。しかし現在の法制度は、故意または過失により他者に損害を与えたものだけが責任を負うという過失責任主義に立脚しており、たとえばレベル4の自動運転車が関与した交通事故のようにAIが重要な位置を占める事案においては、損害の責任を負う対象が誰もいなくなる「責任の裂け目」が生じる危険がある。この問題は、たとえば厳格責任制度を導入するといった立法的対処により解決が可能ではあるが、そのために必要となる社会的な合意の形成には一定の時間が求められる。AI技術の研究開発・実用化にはこの問題に関する適切な配慮が必要であり、技術発展と社会の受容を両立させる枠組が探究されなくてはならない。発表ではそのような枠組を提案する試みの一つとして、日本においてマルチステークホルダー・プロセスにより形成されたAI開発原則の提案を紹介する。